うちの介護手帖

頚髄損傷で四肢麻痺の父を自宅介護しています。慣れない介護をしながらも 豊かな暮らしを不器用に目指して、自宅介護をデザインしていきます。

30になったら、親の不具合を覚悟すべき

漫画家の西原理恵子先生が、介護について書いています。
 
西原先生は、離婚した元・旦那さんの最期を看取っています。最初は旦那さんのアルコール依存症に付き添い、更に離婚した後に最期の時期に面倒を見ていたそう。気合いの入った愛情に尊敬します。
 
エッセイではこう言っています。
「介護について準備と覚悟をしておくのが大事。」
そして最後に言います。
 
二十歳の献血じゃないけれど、二十歳になったら考えるようにしてほしいですね
 
30歳過ぎの友人や先輩たちが、お母さんやお父さんを亡くし、
親が病気になったからと、地元に帰る選択をする友人もいて、
自分のまたは相手の親の具合が良くないからと結婚式を急ぐという話もよく聞きて。
30にもなると、親に何か起こるもんなのですね。
自分が40代・50代になってからの話と思ってたけど、、
 
保険についても、社会保障についても、何も知らない。何を基準に病院や施設を選べばいいのか、選択は何度でもやり直せるのか、家の改修は必要なのか。
分からないけれど、すぐに決断しなければいけないことはたくさんでてきます。
 
介護を始めて身にしみたのは、
1 介護は始まりだしたら止まらない
2 介護は情報戦
 
介護生活が長くなるにつれて、色んな介護関係者と出会い、情報をもらうようになります。生活のペースも分かってきました。
でも、初期のころは焦る一方でした。誰を頼ればいいのか分からない初めこそ、何か芯を持っているのが大事なのだと実感しています。

車椅子の父、映画館に行く

去年の大晦日に、家族でシン・ゴジラを見に行きました。
父は映画好きで、私が中学生のころはミニシアターや名画座に連れて行ってくれました。
シネスイッチ銀座日比谷シャンテを梯子した思い出も
飯田橋ギンレイホールで待ちあわせした事も
思春期に父と出かけた記憶は映画館がらみが多いなあ。
しかし車椅子になってからは出かけるのが億劫がっていて、このシン・ゴジラは父にとって怪我をしてから初めての劇場鑑賞です。
 
劇場公開してから数ヶ月、今更なので深夜のレイトショーのみ、シネコンの中でも一番小さな劇場での上映でした。大晦日だからか、シアター内には私達を含めてたったの7人でした。
 
予約した席について、正面を見るとただの黒い壁です。車椅子席は最前列にあります。スクリーンの位置が高くて近い。首をぐいと上に向け、目線もぐぐっと上目遣いになりようやく画面が見えます。
映画館に設置されている座席は緩やかなリクライニングになっていて、背もたれに頭を押しつける体勢で画面が見える。でも、車椅子には高い背もたれもなければ、リクライニングもない。上半身をのけぞる事ができない父とって、最前列はしんどい位置です。

少しでも見やすくするために、
・持っていた膝掛けやストールを車椅子の前輪にかませて、後ろ向きに少し傾斜を作る
・首の疲れを軽減するためにコルセットを巻く
・両隣に座る私と姉が、映画中に父の首のツボを押したりズレる眼鏡を直したりする

本物のゴジラは見上げても顔なんか見えないくらいでっかいからね。ある意味で臨場感満載。
何かとゴソゴソしていたので、お客さんが少なかったのは幸いしました。
 

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インターネットを見てみると、車椅子席から映画が見づらいって意見はたくさんあります。
スロープを作って、スペース設けて、満足。アクセスについては気にしてくれているけれど、見え方についてはあまり気にしてないのかも。
今更ハードを変えられなくても、バリアフリー化できます。取り外しのできるスロープがあれば見やすい席まで移動できるし、クッションの貸し出しひとつで楽に姿勢がとれる人もいる。車椅子席からだと画面がどういう風に見えるのか、来館前に情報を提示し、検討の余地を与えることだってバリアフリーだと考えます。
 
シネコンさん、車椅子ユーザー達はいいマーケットですよ。
車椅子でも行きやすかったレストランやレジャー施設は仲間内で共有して、芋づる式に宣伝してくれます。付き添いと行動することが多いので、二人分のお客さんは確保できます。良かったサービスへのリピート率も高い。
儲かるバリアフリーって考え方はどうでしょうか。
 
こんな動画を見つけました。
新宿ピカデリーが素晴らしい。

Hey siri, don't make it bad

もし父が怪我をしたのが10年前なら生活は全然違っていただろうなと感じるのは、
コンピューターテクノロジーの充実度が比較にならないからです。
 
不自由なく使えるのは、首より上だけ。首を大きく傾けたり、左右を向いたりするのも難しい。
目を動きや脳波でコンピューターを制御する技術を見聞きしたことはある。NHKワールドビジネスサテライトはそういった新しい技術を紹介するけれど、私が手に取れるほどに普遍化されている訳ではない。
 
でも、音声操作はとても身近な時代になりました。
特にアップルのsiriはすばらしい。
音楽を聴くのも、ボリュームを変えるのも、ぜんぶ口で頼めばやってくれる。多少の滑舌の悪さも、ものとしない。音声操作アプリはいくつかあるけれど、関西弁のイントネーションのせいか言葉を正しく認識してくれないアプリも多いです。
なにはともあれ、siriに助けられています。
 
できない事が増える中で、行動の多くを人に頼まざるを得ない状況で、何か「自分でできる事」は重要です。
人に頼むってことは、伝言ゲームようにタイムラグができる、正確性が失われる。
そこにいらつく事もあると思います。
自分の手で成し遂げられない不甲斐なさも悔しいかもしれない。
 
たとえ音楽のプレーヤーの電源を入れるだけでも、
電話をかけるだけでも、
自分で出来ることを増やしていく事は、メンタル面での回復に繋がるはずです。
 

父ちゃん、siriと仲良くがんばってね

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始めのごあいさつ

はじめまして。
2年前から介護をはじめました。
介護は百人百様といいますが、うちの介護を紹介してみようと思います。
 
父はスポーツ中に転倒し、頚髄損傷となりました。
 
頚髄とは首を通る太い神経管のことで、
脳と身体をつなぐ、とても重要なラインです。
脳は脳で、
身体は身体で、
それぞれの神経は生きているのですが
2つのコネクションがなくなるため、
身体が受け取った温度や痛みなどの刺激を脳に伝えることができないし
筋肉を動かしたり体温調節したりするような、脳による身体の制御ができません。
 
症状は四肢麻痺と診断され、
不自由の中で生きていくことになりました。
 
怪我して最初の2ヶ月は急性期病院に、
その後の半年をリハビリ病院に、
その後、一年間のリハビリ施設で過ごした後、
自宅へ帰って来て数ヶ月経ちました。
 
リハビリのおかげで、
上腕が少しだけ動かせるようになり
道具や人のたくさんの力を借りて
ご飯を口に運んだり、車イスを進めたり
自分でできることも増えました。
 
でも
自宅では援助の力が十分じゃないために、うまくいかないことがあります。
できない事に目を向ければキリがありません。
停滞してイラつき、悩みが多すぎてやりきれず、本人も周りもモヤモヤを抱える毎日です
 
自宅という新環境を、家族にとって一生続いていく環境を、過ごしやすいようにしたい。
不器用ながら介護暮らしをデザインしていく過程を書いていこうと思います。
 
うちの場合の自宅介護。
誰かの役にたつ部分もあるといいんですが。